※これはセミナー聴講時の個人的なノートをそのまま公開したものです。誤字誤植や勘違いがある可能性があるのでご了承ください。
産学連携教育への挑戦~滋賀大データサイエンス学部1期生と共に歩んだ4か月|IT勉強会ならTECH PLAY[テックプレイ] に参加しました。
15:00 - 16:00 講演『産学連携教育への挑戦~滋賀大データサイエンス学部1期生と共に歩んだ4か月』
- 国立大学法人 滋賀大学 河本 薫氏
- 株式会社電通 関西支社 湊 康明氏
- 株式会社インテージホールディングス 小金 悦美氏
産学連携ゼミというこうとで滋賀大学の一期生と取り組んだ結果を説明する。
産学連携ゼミの狙い(河本氏)
- 大阪ガスを経て滋賀大学の教員になった
- データサイエンスの持論
- 「役立つ≠分かる」: 研究論文は分かれば書けるが、大阪ガスでは問題解決に役立つとは限らない
- 「データサイエンス(役立つ)≠統計学(分かる)」
- 「データサイエンス力+データエンジニアリング力+ビジネス力」と図にまとめられるが、本来は多義的: アルゴリズム開発型、ドメイン深掘型、☆ビジネス支援型☆、サービス創造型
- 求められているのは「ビジネス支援型」←この人材を育てるのが河本氏自身のミッション
- データサイエンティストが直面するお題:「最近売り上げが落ちているから、原因が知りたい」など
- データサイエンス教育の持論
- 「医者≒データサイエンティスト」: 「臨床実習(問診→検査→治療)≒PBL(課題発見→データ分析→問題解決)」
- 産学協同教育で、シームレスな人材育成: 大学教育と企業教育、それぞれの教える力で強力し合える部分がある
- 河本ゼミの教育目標: ビジネス支援型データサイエンティストに求められる能力(課題設計力、データ収集と整形、データ分析と解釈、 報告と実装)
- 河本ゼミのPBL方針: 「一気通貫型教育」&「全体俯瞰型教育」、産学連携して共同教育を行う、コミュニケーション力の育成
- PBL演習に必要な3つの外部始動(2019年の例):
- 【課題発見】ビジネスの悩みや願望: チョコレートの購買状況について何が課題であるかを設計
- 【データ分析】実データ(インテージ社から提供): 50代女性がチョコレートの購入意向をもつかどうかを分析(行動仮説を探索)
- 【問題解決】当事者へのプレゼン機会: 結果を発表
- 「わかる」→「役立つ」への価値観の改革ができた
参加者アンケートの結果について(ディスカッション)
- 河本氏/小金氏: やらされている感ではなく、積極的・自発的に取り組むようになった
- 湊氏:アウトプットのためのインプットになったのが大きい
インテージが産学連携ゼミに参画した理由(小金氏)
- インテージはさまざまなデータを集めている(市場調査やマーケティングリサーチ)
- ビジネスにおけるデータ活用課題: デジタル化&スピーディな意思決定の時代だが、意思決定につながるアウトプットができるデータサイエンティストが不足している
- ビジネスサイドが教育に関与する意義は、データサイエンティストに必要とされる「ビジネス力」の部分を育成する必要があるから(社長:会社の責務として貢献したい)
- インテージの増田氏による「現場」の説明:
- 講義するうえで気を付けた点: 目的の重要性(何のために? 誰が?)、実務と理論のバランス(実利用と研究論文では違う)、データ分析(目的を考えて自らが不足するデータを拡張)
- 議論を通じて感じた点: 目的の重要性(自走する学習に発展)、考え方の変化(答えを求める態度から可能性を追求する態度へ)、結果の説明(データ分析に明るくない人への説明を想定)
学生時代にビジネスシーンをイメージすることの必要性(湊氏)
- 電通若者研究部の研究員としての研究経験などから「若者×テクノロジー」などに取り組む
- 学生の間にキャリアを意識する瞬間が大切
- 大学院生時代: “勉強がどう社会還元されるのか、イメージする力”がなかった
- バックキャスト思考の重要性: 未来やビジネスシーンをイメージする、自分の実力の検証と気付いていない視点の拡張、勉学への意義づけとアクションプランの策定
- 社会に還元される「イメージ」を持ってもらう: ビジネスでの意思決定手法としてのデータサイエンスを意識させた
- 自分の実力の検証と気付いていない視点の拡張: 「アイデアを出していない」「企画書が書けてない」「ビジネスとして成立していない」といった、ビジネスの基礎力の欠損の提示
- 勉学への意義づけとアクションプランの策定: ワークシートを活用した振り返り
- 「報告と実装」では、プレゼンして終わりではなく、アプリケーション開発力も大切
- 技術が分かるプロデューサー、ビジネス感覚のあるエンジニア=いわば翻訳者のような人材が必要: アカデミック的素養がある人材にビジネスマインドをインプットするのは価値がある
- 次世代のリーダーを育てる:多業種合同インターンプログラム 「engawa young academy」
16:00 - 17:00 パネルディスカッション
- モデレーター:ヤマトホールディングス株式会社 中林 紀彦氏
- 国立大学法人 滋賀大学 河本 薫氏
- 株式会社電通 関西支社 湊 康明氏
- 株式会社インテージホールディングス 小金 悦美氏
人材育成について産学連携のToBe像
- 中林氏: 世界で一番成功しているプログラムは「Insight Data Science Fellows Program」。基礎的なところを教えた後はPBLが大事
日本に必要なモデルは?
河本氏: 企業が能動的に大学と連携していくべき。PBLに基づく教育基盤は大学連携でしか難しい。「課題発見をどう教えるのか?」=大学で数学に詳しい人が教えるのがうまいわけではない。ビジネスを持つ企業の人の方が教えるのがうまい可能性が高い。だからといって杓子定規に分けられないので、大学と企業が一緒に教育内容を考える必要がある。学生は問題と課題の違いが分かっていないことが多いので、そこから教える必要がある。
湊氏: 企業への長期インターンをした方がいい。若いうちにビジネスシーンに触れられるから。企業にとってもメリットがあるはず。
小金氏: 社内でやりたいという声が挙がったわけではない。実態として仕事が忙しいのにやってられないという状況だった。優秀なデータサイエンティストが2名も大学に教育者として派遣することに本当に価値があるのかという議論はある。
中林氏: 人に依存しないサステイナブルなモデルを作っていく必要がある。
河本氏: 予算がいただけるならば解消できるかもしれないが。
湊氏: 学校法人から企業への対価がペイするものかというとそうではない。学生さんに任せられる業務を3割ぐらいに増やせるのなら、うまくいくのではないか。そういった体制を作る方が現実的。
小金氏: 複数の企業が参画できる点は、学生に刺激が与えられる点ではよい。そういった学生はインテージにとっても人材採用の面で魅力的に見える。
河本氏: モチベーションと自信があれば学生は自走する。だからモチベーションを付けてやるのが大事。
湊氏: 学生でプログラミングできてもアプリが作れないのが嫌で、アプリ実装サークルなどに入って、企業から時給5000円で請け負って、実践を学ぶ例などがある。こういうおんは良いモデルだと思う。
会場質問: データサイエンスといっても領域はさまざま。企業が欲しい領域の人材と必ずしもマッチングできていない。例えばデータ分析やりたい人と機会学習やりたい人は違うので、ミスマッチが起きると、企業をすぐにやめていってしまう。これについてはどう考えているか?
中林氏: マッチングの精度を上げるにはどうするべきか?
湊氏: 人材の取り合いが起きている状況。企業は人材を逃したくないと思うので、社内副業制度を作っていくのが良いと思う。
小金氏: データサイエンスという用語は広義だが、採用時にその人の能力ややりたいことをきっちりと見極めるのは結構難しく、悩ましい。
中林氏: 企業は総合職のような形で採用せざるを得ない。専門職を作っても将来的に変化していくので。
会場質問: 課題設定の進め方のコツ。
河本氏: そこが核心で、私が得意なところで、大学が果たすべき分野だと思う。そのノウハウこそが日本の財産になる。
小金氏: カリキュラム作成でさんざんディスカッションした。
湊氏: 産学協同で参画した三者の距離が遠かったことが、より良い議論につながった。
会場質問: 大学生の話が中心だったが、少子高齢化で学び直しが必要になるのでは?
河本氏: 滋賀大学では院を作ってリカレント教育にも力を入れ始めた。ただし、休職が必要なので、企業ではなかなか難しい面がある。ニーズはあるが、実現が難しいのが問題。
小金氏: リカレント教育のできる社会になるとよい。データサイエンスを習得できる場が増やせるとよい。最後のまとめとしては、企業としてもデータサイエンスの産学協同をサステイナブルにする必要がある。同じような企業が増えていけばよりやりやすい。
湊氏: リカレント教育は賛成だが、それを実現するには社内体制を整える必要がある。企業で産学連携のイメージができて、仲間がふえていくとよい。