社内文書やメールなどを書いている時、あるいは日々のチャットAIへの入力で、「-」というキーを打つことは多いですよね。
- 「state-of-the-art」と書くときの「-」
- 「10–20ページ」と書くときの「–」
- 「彼は言った―」と書くときの「―」
これらすべて、キーボード右上の「-」キー(ハイフンマイナス)で済ませていないでしょうか? 通常はそれでOKですが、3つ目は日本語の全角ダッシュなので「だっしゅ」とIMEで入力して変換すると入力できます。取りあえずそのルールだけ覚えていれば、通常は問題が起きないはずです。
しかし実は、これらの「横棒」にはそれぞれ異なる意味と役割があり、タイポグラフィ(文字組版)の世界では厳密に使い分けられています。特に英語圏ではエンダッシュ(–)とエムダッシュ(—)を入力して使い分ける場合があり、macOSではこれらを以下のショートカットキーで入力できます。
- エンダッシュ (–):
Option+-(ハイフンキー) - エムダッシュ (—):
Option+Shift+-(ハイフンキー)
このような状況なので「Windowsでは入力できない」という不満が各所で挙がっていました。そこで、Windows 11では、これらの記号を以下のショートカットキーで簡単に入力できるようになりました。
- エンダッシュ (–):
Windows+-(ハイフンキー) - エムダッシュ (—):
Windows+Shift+-(ハイフンキー)
入力方法も似ているのでこれなら覚えやすいですね。しかし入力できたとしても、どんなときにこれらを使うか分からないと思います。私も普段使っていないので調べながらでないと分かりません。
ということでこの記事では、似て非なる「ハイフン系」の記号たちを整理し、Windows 11での入力方法と、シーン別のベストプラクティス(使い分けの指針)を解説します。
1. 似ている「横棒」たち 比較表
まずは、「横棒」で表現される代表的な記号(文字)たちを整理してみましょう。
| 記号 | 名前 (Unicode) | 主な役割 | Windows 11での入力(一例) | |
|---|---|---|---|---|
| ① | - | ハイフンマイナス (U+002D) | 【兼用】単語連結、マイナス代用。(キーボードから直接入力する基本の文字) | - キー(右上にある「ほ」のキー) |
| ② | – | エンダッシュ (U+2013) | 【英語】範囲、期間、関係性 (例: 10–20) | [Windows] + [-] (※1) |
| ③ | — | エムダッシュ (U+2014) | 【英語】補足、中断、強調 (例: —like this—) | [Windows] + [Shift] + [-] (※1) |
| ④ | ― | 日本語のダッシュ (U+2015) | 【日本語】補足、副題、区切り | 「だっしゅ」と入力して変換 |
| ⑤ | − | マイナス記号 (U+2212) | 【数学】本物の引き算記号 (例: $10 − 5$) | 「まいなす」と入力して変換 |
| ⑥ | ⁻ | 上付きマイナス (U+207B) | 【数学】指数の負号 (例: 10⁻³) |
「うえつき」などで変換 |
| ⑦ | ー | 長音符号 (U+30FC) | 【日本語】音を伸ばす (例: ラーメン) | 日本語入力状態で「-」キー(「ほ」のキー) |
| ⑧ | ~ | 波ダッシュ (U+301C) | 【日本語】範囲、柔らかい表現 (例: 10時~) | 日本語入力状態で「~」キー(Shift + 「へ」のキー) |
(※1) メインキーボードの - キー(テンキー不可)
2. 各記号の役割と Windows 11 での入力方法
① ハイフン(ハイフンマイナス, U+002D)
私たちがキーボードで [-] キーを押したときに入力される、最も身近な記号です。
本来の「ハイフン」と「マイナス」の役割を兼用するために用意された、コンピュータ用の文字です。
- 役割: 単語の連結(複合語)、行末での単語の分割、マイナス記号の代用。
- 入力:
-キー(「ほ」のキー、またはテンキーの-) - 使用例:
state-of-the-art(複合語の連結)e-mail(単語の連結)10 - 5 = 5(マイナス記号の代用)
Unicodeでは U+002D、Shift_JISでは(ASCIIコードと同じ)2D(16進数)として扱われます。
② エンダッシュ (En Dash, U+2013)
「N」の文字幅に由来するダッシュです。主に英語圏で、「範囲」や「関係性」を示すために使われます。
- 役割: 「...から...まで」という範囲、期間、関係性。
- 入力:
[Windows] + [-]キー - 使用例:
pages 10–20(10ページから20ページまで)May–August(5月から8月まで)the East–West conflict(東西対立)
③ エムダッシュ (Em Dash, U+2014)
「M」の文字幅に由来する、エンダッシュより長いダッシュです。主に英語圏で、文章の流れを強く「中断」したり「補足」したりするために使われます。
括弧 () やコロン : に近いですが、より強調したい、あるいは感情的な中断を示したい場合に使われます。
- 役割: 文中の挿入、補足、思考の中断、会話の遮り。
- 入力:
[Windows] + [Shift] + [-]キー - 使用例:
He finally answered—after a long pause—that he agreed.(彼は—長い沈黙の後—同意すると答えた。)
④ 日本語のダッシュ (Horizontal Bar, U+2015)
私たち日本人が「ダッシュ」と聞いて想像するのがこれです。全角幅を持ち、機能的には英語のエムダッシュ (—) とほぼ同じです。
- 役割: 補足、説明、言い換え、副題。
- 入力:
「だっしゅ」と入力して変換 - 使用例:
特集 ― 春の新生活(副題として)彼は言った―「もう帰る」と。(会話や引用の区切りとして)この記事で紹介したショートカット―Windows 11の機能―は便利だ。(補足・言い換えとして)
Unicodeでは U+2015、Shift_JISでは 815C(16進数)として扱われます。
⑤ (本物の)マイナス記号 (Minus Sign, U+2212)
これは数学の「引き算」専用の記号です。
キーボードのハイフンマイナス (-) との違いは、+(プラス記号)とデザイン的なバランス(高さや太さ)が揃うように設計されている点です。
- 役割: 数学的な引き算。
- 入力:
「まいなす」と入力して変換(MS-IMEなど)、またはWordなどの自動変換 - 使用例:
10 − 5 = 5(ハイフンマイナスより中央に配置されます)
Unicodeでは U+2212、Shift_JISでは 817C(16進数)として扱われます。
【※補足:入力と判別の難しさ】 この記号の入力は厄介です。
- MS-IMEでは「まいなす」と変換すると候補に出ますが、フォントによっては「-」(ハイフンマイナス)との見た目での区別が非常に困難です。
- ATOKなどの一部IMEでは、「まいなす」と変換しても候補に表示されない場合があります。この場合は文字パレットで[コード]に「2212」と指定すると入力できます。
- 見分け方のヒント:
+(プラス記号)と並べてみてください。10 + 5と10 − 5のように、横棒の高さが揃っていれば、それは「本物のマイナス記号」である可能性が高いです。
⑥ 上付きマイナス (Superscript Minus, U+207B)
記号: ⁻
これは、文字の上部(上付き文字の位置)に表示される小さなマイナス記号です。
- 役割: LaTeXやHTMLの
<sup>タグが使えないプレーンテキスト(SNSやチャットなど)で、¹²³や⁺といった他の上付き文字と組み合わせて、指数の負号(マイナス乗)を示すために使われます。 - 入力:
「まいなす」などで変換(IMEによる)、または文字コード表(文字パレット)から207Bを指定。 - 使用例:
10⁻³(10のマイナス3乗)
Unicodeでは U+207B として定義されています(Shift_JISの標準的なコード範囲には含まれません)。
⑦ 長音符号 (Prolonged Sound Mark, U+30FC)
記号: ー
これは日本語のカタカナやひらがなで「音を伸ばす」ために使われる記号です。ご指摘の通り、日本人が語尾を伸ばす際はこちらを使います。全角の「日本語のダッシュ (―)」とよく似ていますが、役割が全く異なります。
- 役割: 日本語の長音(伸ばす音)。
- 入力: 日本語入力状態で
「-」キー(「ほ」のキー) - 使用例:
ラーメンコンピューターなるほどー
Unicodeでは U+30FC、Shift_JISでは 815B(16進数)として扱われます。
⑧ 波ダッシュ (Wave Dash, U+301C)
記号: ~
これは日本語特有の記号で、主に範囲を示したり、リラックスしたニュアンスを出したりするために使われます。
- 役割: 範囲(...から...まで)、または柔らかい表現。
- 入力: 日本語入力状態で
「~」キー(Shift + 「へ」のキー)、または「から」と入力して変換 - 使用例:
10時~11時(範囲)東京~大阪(区間)ですよね~(語尾のニュアンス)
Unicodeでは U+301C、Shift_JISでは 8160(16進数)として扱われます。
3. 結局どう使い分ける? シーン別ベストプラクティス
これだけ種類があると混乱してしまいますが、TPO(時と場合)で使い分けるのが現実的です。
ケース1:日常のブログ記事、Web記事、メール
結論:基本的に「ハイフンマイナス (-)」で問題ありません。
state-of-the-artは?- → ハイフン (-) を使います。これは連結なので、エンダッシュ (–) やエムダッシュ (—) を使うのは誤りです。
- 「10時~11時」や「10-20ページ」は?
- → ハイフン (-) で代用して
10-20と書くのが一番手っ取り早く、Webでは一般的です。 - → 日本語なら
~(波ダッシュ) を使う10時~11時の方が一般的です。 - → 英語でこだわるなら、エンダッシュ (–) を使い
10–20と書くとプロフェッショナルに見えます。
- → ハイフン (-) で代用して
- 引き算
10 - 5は?- → ハイフン (-) でOKです。前後にスペースを入れると、ハイフンマイナスでも読みやすくなります。
ケース2:プロの出版物、学術論文(特に英語)
結論:スタイルガイドに従い、厳密に使い分けます。
『The Chicago Manual of Style』(シカゴ・マニュアル・オブ・スタイル)やAPA(アメリカ心理学会)スタイルなど、分野ごとの厳格なルールブックに従い、エンダッシュとエムダッシュを正確に使い分けることが求められます。
ケース3:日本語の文章で「補足」を入れたい
結論:「日本語のダッシュ (―)」を使いましょう。
英語のエムダッシュ (—) を使う必要はありません。「だっしゅ」と変換して出てくる全角の ― を使うのが、日本語の文章として最も自然です。また、―(全角ダッシュ)や…(三点記号)は――や……のように2つセットで使うのが、商業メディアでは一般的です。
例: 彼は言った―「もう帰る」と。
おまけ:ChatGPT とエムダッシュ
最近のAI(特にChatGPT)は、文章の補足として英語の「エムダッシュ (—)」を多用するクセが指摘されています。
We found the key — a rusty old skeleton key — under the mat.
これが不自然だと感じるユーザーも多く、OpenAIのサム・アルトマン氏が「カスタム指示で『em-dashを使わないで』と指示すれば、言うことを聞くようになっている」と2025年11月14日にポストしているほどです。 AIも、この使い分けには苦労している(あるいはこだわりすぎている)のかもしれませんね。
まとめ
Windows 11の [Windows] + [-] や [Windows] + [Shift] + [-] といったショートカットは、これまでIMEの変換や文字コード表からしか入力できなかった記号を呼び出す、非常に便利な機能です。これらの記号を使いこなせると、プロフェッショナルな印象になります。ぜひ一度、キーボードで試してみてください。




